不動産の購入をする際は、ほとんどの場合で住宅ローンを利用することになるでしょう。よって、「住宅ローン控除」を活用できるかどうかが重要になります。制度を利用すればその後のローン支払いの負担を軽くすることができます。この住宅ローン控除の適用を受けるためにはいろいろな要件があり、全てを満たさなければ控除が受けられません。
さらに、中古住宅を購入する場合は、住宅ローン控除を受けるためには「築年数」や「新耐震基準を満たしているか」がポイントになります。今回は、住宅ローン控除において「中古住宅の築年数の要件」を緩和できる「耐震基準適合証明」について解説します。
目次
耐震基準適合証明とは
初めに述べたように、住宅ローン控除の要件の中には「中古住宅の場合の築年数は、耐火建築物(マンションなど)は築後25年以内、非耐火建築物(木造住宅など)は築後20年以内の住宅であること」があります(築後年数要件)。
これだけを見ると、築年数が20年、25年以上の中古住宅では控除を受けられないことになりますが、実はこの築後年数要件を緩和できる特例も用意されています。
特例の具体的内容は、下記の3つのうちいずれか1つを満たして建物が現行の基準に適合していることを証明することです。
- ・耐震基準適合証明書
- ・既存住宅性能評価書(耐震等級1以上)
- ・既存住宅売買瑕疵保険に加入
現行の建築基準を満たすことを建築士等が証明した「耐震基準適合証明書」を取得すれば、特例として築後年数要件を満たさない物件でも住宅ローン控除を受けることができます。
つまり、耐震基準適合証明書が付いている中古住宅を購入する場合は、築後年数要件がオーバーしている物件でも住宅ローン控除適用の対象です(ただし、築後年数要件だけを満たせばよいのではなく、家屋の床面積などの他の要件も満たす必要があることはお忘れなく)。
では、築後年数が古い建物で、この証明がされているか分からない場合はどうしたらよいのでしょうか?実際、引き渡し後や居住開始後に証明書を申請しようと思っても手遅れになるパターンがほとんどです。制度を利用できるかどうかは「不動産売買の契約前」に確認することが重要です。
そして、証明書を取得するために、建物の状態や売主の協力が得られるかなどの条件に応じて、契約前にやらなければいけないこと、やってはいけないことをそれぞれ把握した上で、証明書の取得に向けたスケジュールを立てる必要があります。
証明書の取得パターンは物件の「引き渡し前」「引き渡し後」2つの方法があります。
方法1.引渡し前に取得する
物件の引き渡し(所有権転移)前に耐震診断や必要な耐震改修を行い、売主が申請者となって証明書を取得するパターンです。
この場合、売主が自ら耐震改修を行っていた場合を除いて、高確率で耐震改修が必要になります。日本木造住宅耐震補強事業者協同組合によれば、組合がこれまでに実施した耐震診断では1981年の旧耐震基準の木造住宅は8割以上で改修が必要という判定が出たそうです。引き渡し前に耐震診断や工事を行うには主の許可が必要であり、これまでは売主側の協力が得られず申請を行えないケースがありました。
そこで、2014年から、物件引き渡し後から入居までの間に買主が耐震診断や改修工事を行って証明書を取得すれば、住宅ローン控除の対象とできる方法が追加されました。これが方法2になります。
方法2.引き渡し後に取得する
この方法で控除を受けられるようにするためのポイントは、以下の2つです。
・引渡し後に証明書取得申請をする場合であっても、引き渡し前に「仮申請」をする
つまり、引き渡し(所有権転移)前に仮申請をしておかないと、その後に耐震改修を行って入居前に証明書を取得できたとしても、住宅ローン控除は受けられないので注意が必要です。
・引き渡し後から6ヶ月以内に入居(住民票移転)することが条件であり、それまでに工事を完了し、証明書を取得する
購入した物件の引き渡し後から6ヶ月以内に入居する必要があるので、耐震診断、改修工事、証明書申請から発行までなど、それぞれにかかる工期や期間を想定して、6ヶ月以内に収めなければならないという条件です。
さらに、上に述べたように入居日=住民票移転日と判断されるため、入居前に新住所登記を行う不動産業界の慣習だと、入居前にローン融資を受ける際に控除の対象外となる可能性が高くなります。そのため、住民票移動は引き渡し時ではなく入居日に合わせて行いましょう。
このように、引き渡し後の申請は流れが複雑になっているので、専門家に相談するなどの対策は不可欠です。仲介事業者の中には、これらの一連の流れを十分に理解していない事業者がいることも事実です。実際に、本来は住宅ローン控除の対象になる物件なのに恩恵を受けられなかったり、相談して実際には可能なのに対象外だと言われたりするトラブルも起こっています。中古住宅の購入にあたって住宅ローンの控除を希望している人は、取得の流れについて具体的に説明できる不動産売買の仲介業者を選ぶことが重要です。
証明書のメリットその1~住宅ローン~
住宅ローン控除は、10年間にわたって1年あたり最大20万円~50万円の所得税控除が受けられます。これは、ローン返済においてとても大きな負担軽減になるでしょう。それでは、中古住宅の耐震基準適合証明によって受けられる住宅ローン控除の内容について詳しく説明します。
原則として、返済期間10年以上の住宅ローンを利用して住宅の取得をした場合、10年間、各年末の住宅ローン残高の一定割合(1.0%)を所得税額から控除します。前年分の所得税から控除しきれない場合は、翌年の住民税額から控除されます。
対象となる借入金の最高額は入居時期によって変わり、
- 入居時期2013年~2014年3月の場合の借入金最高額…2000万円
- 入居時期2014年4月~2021年12月の場合の借入金最高額…4000万円
新築で長期優良住宅、低炭素住宅の認定を受けた住宅の場合は
- 入居時期2013年~2014年3月の場合の借入金最高額…3000万円
- 入居時期2014年4月~2021年12月の場合の借入金最高額…5000万円
となっています。
上記から、一般の中古住宅を購入した場合の借入金の最高額は4000万円なので、1年間で最高40万円、トータル10年間で最高400万円の所得税が軽減されます。
消費税10%で2019年10月から2020年12月に居住した人は、増税に対する負担軽減のため、控除の対象期間が13年に延長されます。この場合の控除額はトータル10年間で最高520万円です。
控除期間が10年間の場合、所得税で40万円の満額控除を受けるには、その年の所得税額40万円以上、年末ローン残高4000万円以上という条件があり、満額控除が受けられる人は限られています。
ただし、その年の合計所得金額が3000万円を超える場合は、住宅ローン控除の適用が受けられません。
また、住宅ローン控除とは別に、住宅を売却して損失が生じた場合には、一定要件のもとに、赤字を同じ年の給与所得などの黒字の金額で相殺しながら3年間繰り越せる制度があります(居住用財産の譲渡損失の繰越控除)。
赤字を黒字で相殺しながら繰り越している3年間の間は、課税所得が0円かごくわずかになるので、所得税も同様にほぼ0円になります。そのため、住宅ローン控除を使って控除できる所得税がない状態です。
よって、この場合の住宅ローン控除の利用は、相殺期間を終えた4年目の所得に対して課税される所得税から適用になることを覚えておきましょう。
証明書のメリットその2~登録免許税~
登録免許税とは、不動産を取得したときに、その不動産の権利関係を明らかにするため行う手続き(登記)の際にかかる税金です。売買の場合は所有権の転移登記と抵当権の設定登記がそれぞれ必要です。このとき、下記の条件を満たしていると、税率の軽減措置を受けることができます。
- 自己の居住用家屋で床面積が50平米以上
- 中古住宅の場合は築後20年(鉄骨造、鉄筋コンクリート造などは25年)以内、または一定の耐震基準を満たしている
- 新築または取得後1年以内に登記する
- 登記申請書に、その家屋の所在地の市町村長等による証明書類を添付する
このうち2番の一定の耐震基準を満たすことの証明に、耐震基準適合証明書が有効になります。
軽減される税率は
- 所有権の移転登記は通常2.0%が0.30%に軽減
- 抵当権の設定登記は通常0.4%が0.10%に軽減
となっています。
証明書のメリットその3~不動産取得税~
不動産取得税は、土地や建物などの不動産を取得した時にかかる税金です。都道府県から送られてくる納税通知書で納付します。固定資産税評価額と呼ばれる、その土地や建物に対する価値を評価する公的な評価によって決められた課税標準額に対して課せられる税金です。
税額は、土地・建物の評価額×4%ですが、特例として、土地及び住宅に対しては2021年3月31日までは3%に軽減されています。この内の宅地に関しては、2021年3月31日までは課税標準を半分にする特例措置が取られており、これは建物の性能にかかわらず適用されます。
ここからさらに、新築住宅、認定長期優良住宅、中古住宅の分類ごとに、それぞれの土地、建物に対して異なる軽減措置があります。
ここでは、中古住宅の取得にかかる不動産取得税の軽減措置について詳しく解説します。まず、建物に対しては、一定の要件を満たす住宅は評価額から新築時期に応じて控除を受けられます(中古特例適用住宅)。都道府県や自治体によって控除額は異なりますが、新築時期が新しいほど控除額が高くなります。
要件は次のとおりです。
- ・買主の居住用、またはセカンドハウス用としての取得であること
- ・課税床面積が50平米以上240平米以下であること
- ・次のいずれかに該当すること
1.1982年1月1日以降に建築された住宅(新耐震基準を満たしているとみなされる)
2.1以前に建築された住宅であれば、新耐震基準に合っている証明がなされたものや、既存住宅売買瑕疵保険に加入しているもの
3.新耐震基準に適合しない住宅を取得して、入居前に基準適合のために改修を実施して耐震基準適合証明を受けるもの
このように、1982年以前に建てられた古い物件でも、耐震基準適合証明を受けることで不動産取得税の軽減特例措置の対象になることができます。
そして、土地に関しては先ほどの宅地の特例措置を適用し、評価額×1/2×3%で計算された金額からさらに、次のA、Bのいずれか多い金額を控除した金額になります。
- A.4万5000円
- B.(土地1平米あたりの固定資産税評価額×1/2)×(住宅の床面積の2倍(200平米を限度))×3%
要件としては、中古住宅の場合は次が求められます。
- ・土地を取得して1年以内にその土地上の中古特例適用住宅を取得したとき(土地先行取得の場合)
- ・中古特例適用住宅を取得して1年以内にその敷地を取得したとき(建築先行の場合)
つまり、建物に対して新耐震基準を満たすことを証明できれば、建物と土地の両方で不動産取得税を節約することができます。
取得の仕方
耐震基準適合証明を取得するためにはまず、物件の買付申し込みをしてから不動産売買契約を行うまでの間に耐震診断を行うところから始めます。証明書を発行できるのは、指定性能評価期間や建築士事務所です。
依頼するのは売主でも買主でも構いませんし、発行申請を行ってくれる不動産業者や売買仲介業者もあります。耐震診断を行って、基準を満たし改修不要と診断された場合はそのまま申請手続きに進むことができますので、所有権移転前に発行を受ければOKです。
耐震診断の結果、改修が必要と診断された場合は、改修工事を依頼しなければなりません。売主との意思のすり合わせなどにより、引き渡し前に工事をするか、引き渡し後に工事をするかを決定します。
工事の時期が決定したら、不動産売買契約に進みます。前述したとおり、住宅ローン控除の対象となるには、改修工事が引き渡し後の場合は契約前に必ず証明書の仮申請を行っておく必要があることと、住民票移動のタイミングを実際の入居日にすることに注意が必要です。
工事完了後、証明書の発行依頼を行います。申請してから発行までには最低1ヶ月を要するのでスケジュールに無理が出ないようにしましょう。
取得の仕方
もちろん、きちんとした方法と手順で耐震診断・工事を行えば、証明書自体は取得できます。しかし、先程から述べている通り、「住宅ローン控除の対象」となるためには、補強工事(耐震改修工事)のタイミングが重要です。
引き渡し前に証明書の発行を見越して補強工事を行えば、証明書は取得できますが、引き渡し後で、なおかつ引き渡し前に証明書発行の仮申請をしていない場合は、取得はできても住宅ローン控除の対象になることは難しいです。
住宅ローン控除の目的は、ローンを組んだ直後から10年間の控除を想定していますから、例えば居住して数年経過してから補強工事をしたとしても、それによって後からさかのぼって借入中の住宅ローン控除や不動産取得税の還付を受けることは難しいのです。
まとめ
今回の記事で、中古住宅取得にかかわる様々な軽減措置や特例を受けるには、耐震基準適合証明があると有利であることがお分かりいただけたと思います。
住宅取得においてはローンの返済をはじめ、金銭的な問題は切っても切れない要素です。少しでも無理のないローン返済ができること、不動産取得にかかる税金を節約できることは、購入者にとって大きなメリットになります。
だからこそ、これらの負担軽減措置を受けるためには不動産売買契約前の確認が重要になることを再度強調しておきます。買主は売る側の言いなりになるのではなく、売主や仲介業者の説明で不明な点や納得できないことがある場合は、何でも質問して不透明な点を解決していく姿勢が大切です。また、その際の担当者の対応で、良い業者かを判断するのにも役立つでしょう。
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